事業成長を加速させる「採用ブランディング」
ストーリーブランディングとは?実践するメリットも
2024年01月23日
現在、「ストーリーブランディング」というブランディング手法に注目が集まっています。ストーリーブランディングは、消費者の感情に訴えかけるために、製品・企業の背景にある物語に着目してブランディングを行う手法です。
この記事では、ストーリーブランディングの意味や注目が集まる理由について、分かりやすく解説します。また、ストーリーブランディングを実践するためのストーリーのつくり方についても取り上げるので、ブランディングを進めていきたい企業担当者の方は、ぜひ参考にしてください。
1. 商品に感情を付加する「ストーリーブランディング」の意味とは?
「ストーリーブランディング」とは、製品や企業の背景にある物語(ストーリー)に着目し、消費者の感情に訴えかけるブランディング手法です。ストーリーブランディングでは、企業や商品・サービスとともに、商品が生まれるにいたったストーリーや企業の歴史などを絡めて紹介します。
何かを覚えるときに、ストーリーと関連させて覚えると記憶に残りやすいと言われ、ストーリー記憶法として勉強に活用する人もいるほどです。ストーリーとブランディングを関連づける考え方は、消費者に対してブランドの存在をアピールし、覚えてもらうためには効果的です。
商品やサービス自体には、利用することによるメリットはあっても、消費者の感情を揺るがす要素はほとんどありません。なぜ商品がつくられたのか、なぜブランドが生まれたのかといったストーリー性にフォーカスすることで、消費者に商品・サービスに共感を抱いてもらえるように働きかけられます。企業理念や商品・サービスのこだわりを伝える際に感情の動きが付加され、消費者の中でブランドの印象がより深く残るでしょう。
1-1. そもそもブランディングとは?
ストーリーブランディングを成功させるためには、ブランディングやブランドについて理解を深める必要があります。
ブランドは、企業や特定の商品・サービスそのものではなく、消費者に企業や商品・サービスを識別してもらうための記号です。ブランドの中には、商品の機能やサービス内容だけでなく、提供する企業の理念やブランドの価値観なども含まれます。
ブランドはもともと家畜に押されていた焼き印を表す言葉です。現代でも、ブランドは社名・商品名・ロゴなどさまざまな方法によって表現されています。キャッチコピーも、ブランドを表す要素の1つです。
ブランドは企業側がロゴやキャッチコピーを打ち出すだけでは成立しません。消費者がブランドを認識し、特定のイメージを抱いてはじめてブランド化が成立します。
消費者にブランドの独自性や価値を認識してもらうための手法が、ブランディングです。ブランディングが進み、消費者にブランドが認識されるようになると、他社との差別化だけでなく、消費者の中にブランドに対する信頼感や安心感が生まれる効果もあります。
2. 「無農薬りんごのキャッチコピー」の例から学ぶストーリーブランディング
ストーリーブランディングの例として、無農薬りんごのブランディングを紹介します。「甘くておいしい無農薬栽培のりんご」を、次の3通りの表現で説明したときの感じ方を比較してみましょう。
甘くておいしい無農薬栽培のりんごです。
葉をとらず無農薬で育てたりんごです。果実にしっかり栄養が行き渡り、芳醇な甘みをお子さまでも安全に味わえます。
木村秋則氏の「奇跡のりんご」です。木村氏は、りんごの完全無農薬栽培は不可能と言われていた中で、10年もの歳月をかけて試行錯誤を繰り返し、無農薬りんごを実現しました。栽培方法や土にこだわって栽培したりんごは、豊かな甘みを安心して味わえます。
いずれの例でも、甘さやおいしさ、無農薬栽培について説明している点は共通しているものの、3番目の説明がもっとも印象に残るでしょう。端的な事実だけを述べるより、具体的な人名や無農薬りんごが完成するまでの道のりをあわせて語ることで、他にはない商品として見る人に強い印象を残せます。
例として取り上げた木村氏の「奇跡のりんご」は、実在のブランドです。木村氏の試行錯誤と奇跡的な結末がテレビなど多方面で取り上げられることで、りんご自体の知名度も大きく上がりました。ストーリーブランディングの好事例と言えるでしょう。
出典:UR都市機構「「絶対不可能」を覆した農家・木村秋則氏に学ぶ、奇跡を起こすためのヒント
https://www.ur-net.go.jp/toshisaisei/project/project1.html
3. なぜストーリーブランディングに注目が集まるのか?
ストーリーブランディングに注目が集まるようになった背景には、企業と消費者の関係性が変化し、マーケティングのあり方が変容したことが挙げられます。ここでは、ストーリーブランディングに注目が集まる理由を解説します。
3-1. 商品が溢れてすぐに買えるようになったため
消費者のニーズを反映するように市場は商品で溢れかえり、ネット通販の普及によってほしいものをいつでもどこでも買える時代になりました。
消費者はなんでもすぐに手に入れられるため、常に物質的に満たされ、特定のブランドを選ぶ必要性が薄い状態に置かれています。現在の状況で消費者に自社の商品・サービスを積極的に選んでもらうには、消費者の感情に訴えかける方法が必要です。
商品が簡単に手に入ることから、物質的な充足感より心理的な充足感を重視する消費者も少なくありません。商品やブランドにまつわるストーリーを通じて、心理的な満足感を提供できるでしょう。
3-2. コモディティ化が進んでいるため
「コモディティ化」とは、商品・サービスの一般化を指す言葉です。発売当初は目新しかった商品・サービスでも、後から類似品が市場に出回ると独自性が失われます。最終的には各類似商品・サービス間で価格や機能、内容の差が感じられなくなる状況が「コモディティ化が進んだ」状況です。
コモディティ化が進むと、価格も機能も似た商品・サービスの中から、消費者に自社ブランドの商品・サービスを意図的に選んでもらう必要があります。
消費者に自社ブランドの商品・サービスを意図的に選んでもらうためには、価格・機能以外の魅力を消費者に伝えなければなりません。商品・サービスの背景にあるストーリーを消費者にアピールすることで、他社の競合商品・サービスとの差別化を図ることができ、消費者に選ばれやすくなります。
3-3. 従来の広告の効果が弱くなったため
インターネットの普及により、消費者はWebサイトの閲覧時や動画の視聴時に大量の広告を目にする機会が増えました。
インターネット上の広告の数が増える一方で、従来通りの広告を打つだけでは消費者の目にとまりにくく、効果が弱くなりました。消費者に入ってくる情報量が膨大になり、一つひとつの情報の印象が弱まっているためです。
Webサイトや動画を見ている最中に広告が出てくると、商品やサービスに興味を感じていない視聴者にはスキップされる可能性があります。自社の広告を見てもらうためには、消費者に興味を持ってもらい、広告を見ようという気持ちを持ってもらうことが大切です。
消費者の興味をひきつけるきっかけとして、ストーリーブランディングへの注目度が高まっているという側面があります。
3-4. 誰でも情報発信が行えるようになったため
かつては企業からの情報発信はテレビCMや新聞広告が主体で、マスメディアとつながりを持つ大企業が強い発信力を持っていました。現在はインターネットが普及し、中小企業でも個人でもインターネットにアクセスできる環境が整っています。ブログやSNSなど簡単に情報発信できる方法も増え、誰もが情報を発信する側に回れるようになりました。
ストーリーブランディングは、消費者の共感を得られるストーリーを発信できれば、会社の規模にかかわらず発信力を強められる方法です。これまで強い発信力を持っていなかった中小企業でも実践できるため、新しいブランディング手法としてストーリーブランディングが注目されています。
3-5. SNSの普及が進んでいるため
SNSの普及によって、インフルエンサーの投稿など、消費者個人によって主体的に発信される情報がパワーを持つようになりました。消費者による情報発信の重要性が高まり、SNSがブランド戦略上重要なツールとなったことも、ストーリーブランディングの注目度が高まった理由の1つです。
SNS上では、積極的な発信だけでなく、発信に対する反応も重要です。消費者の評価は「いいね」など、読み手からのリアクションに表れ、数値化されることで反響の大きさが可視化されます。
他にも、SNSには消費者がよいと思った情報を簡単に共有できるなど、情報がスピーディーに伝わるシステムも備わっています。SNSの影響力やスピード感に対応するためにも、ストーリーブランディングを活用してSNSユーザーを味方につけることが大切です。
3-6. 消費者の高齢化が進んでいるため
日本では高齢化が進んでおり、令和3年10月1日時点では全人口の28.9%を65歳以上の高齢者が占めています。高齢化は今後も進むと見られており、マーケティングやブランディングも高齢化社会に合わせて変化させていく必要があります。
出典:内閣府「令和4年版高齢社会白書(全体版)
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2022/html/zenbun/index.html
従来の高齢者像とは異なり、これからの高齢者は消費意欲が高く、よいと思えば商品・サービスを購入してくれる可能性が高い消費者です。高齢化社会でのマーケティング・ブランディングは、いかに高齢者にアプローチするかがポイントとなります。
高齢者層に対してブランディングを成功させるためには、細かな商品・サービスの機能的価値だけでなく、高齢者の共感を呼ぶストーリーブランディングが重要です。
4. 企業がストーリーブランディングを実践するメリット
企業がストーリーブランディングを実践して得られるメリットには、次のようなものが挙げられます。
消費者の記憶や印象に残りやすい
ストーリーブランディングは、商品・サービスを差別化するだけでなく、ストーリーを絡めることで記憶に残りやすくする効果があります。ブランドを消費者に強く印象づけられるため、認知度の向上が期待できるでしょう。
ブランドのファンをつくりやすい
ストーリーブランディングを通じて、消費者がブランドに対する共感や親近感を覚えやすくなります。ブランドに共感した人はファンとして、ブランドの商品・サービスのリピーターとなってくれる可能性が高まるでしょう。
商品・サービスの価値を伝えやすい
商品・サービスの特徴や価値を端的な言葉で伝えても、消費者には使用シーンや利用した際のメリットなどがイメージしにくい場合があります。ストーリーを通じて商品・サービスの由来や開発にいたったエピソードが分かると、機能や内容を重視した宣伝より商品・サービスの価値や魅力が伝わりやすくなります。
他社との差別化を図りやすい
各社の商品・サービスの内容に差が見られない場合でも、ストーリーは独自性を主張できるポイントです。商品・サービスそのものではなく、ストーリーブランディングを通じて理念や背景を理解してもらい、他社との差別化を図れます。
ストーリーブランディングはBtoC企業での活用が注目されることが多いものの、上記の点はBtoB企業にとってもメリットとなります。
5. ストーリーブランディングを実践するために必要なストーリーのつくり方
ストーリーブランディングを実践するためには、消費者の心を揺さぶるような強いストーリーづくりが必要です。ここでは、ブランドストーリーづくりの方法と手順を紹介します。
5-1. ユーザー像を明確化する
ストーリーを組み立てるには、ブランドの商品・サービスを使うユーザー像を明確に想定する必要があります。ユーザー像が具体的であるほどユーザーのニーズが明確になり、訴求力の高いストーリーをつくれるでしょう。
具体的なユーザー像を洗い出すためには、「ペルソナ」を設定するのがおすすめです。ペルソナは、年齢層や性別といった抽象的な属性だけでなく、職業・趣味・主に使うSNSまで、1人の人格が浮かび上がるよう詳細にわたって設定しましょう。
5-2. 提供できる価値を明確化する
設定されたペルソナに対して、自社ブランドが提供できる価値を明確化します。ブランドの強みを把握することで、ブランドならではの強いメッセージを込めたストーリーを構成できるでしょう。ブランドの価値を明確にするには、ブランドを徹底的に分析し、他社や類似品・類似サービスとの違いを洗い出すことが必要です。
自社ブランドの価値を分析する方法には、3C分析・SWOT分析・PEST分析などがあります。3C分析は、自社(Company)・顧客(Customer)・競合他社(Competitor)の3つのCを分析する方法です。SWOT分析は自社の現状、PEST分析は外部環境が自社に与える影響を分析することを目的とします。
ブランドの価値を分析するのであれば、3C分析がおすすめです。他の分析方法は必要に応じて併用しましょう。
5-3. ストーリーを構築する
洗い出したユーザー像や自社ブランドの価値をもとにストーリーを構築します。消費者の共感を得るためには、具体的なエピソードが必要です。実在の場所や人物、実際のエピソードを盛り込むことで消費者にストーリーを違和感なく伝えられます。
エピソードの種類には、志や理念、ブランドや商品・サービスを立ち上げるまでの過程などがあります。ブランドの世界観を伝えるために、日常的なエピソードを盛り込むのもおすすめです。
ストーリーそのものの構成は、シンプルにしましょう。消費者はスマホでネットを閲覧することも多く、長い文章は読みにくく感じられます。消費者がブランドストーリーにアクセスする時間も長くないため、短く分かりやすい言葉で伝えるほうが伝わりやすく、共感も得やすくなります。
5-4. 根拠を提示する
ブランディングを成功に導くには、消費者の共感を得るだけでなく、最終的には消費者に「買いたい」「利用したい」と感じてもらうことが必要です。
消費者の購買行動を後押しする方法として、ストーリーにくわえて根拠を提示する方法が考えられます。ブランドの実績や商品・サービスの効果など、具体的なデータを提示するとよいでしょう。
ストーリーと根拠に一貫性がない場合は、ストーリー全体が説得力に欠けたものになります。短い時間で消費者の感情に訴えかけることを念頭に置き、ブランディングにふさわしいストーリーと根拠をじっくり考えましょう。
6. ストーリーブランディングを成功させるコツは「顧客目線を貫くこと」
自社のストーリーを描く際に、あまり自社ブランドや商品・サービスを意識しすぎると一方的なストーリーになり、顧客の共感を得にくくなります。購買活動の中心にいる顧客目線を貫くことが、ストーリーブランディング成功のコツです。
顧客目線のストーリーブランディングを行うためには、次のようなポイントを意識しましょう。
ストーリーの主役は消費者である
主役は商品・サービスを利用してほしい消費者自身です。商品・サービスの魅力だけでなく、ストーリーの中で消費者の悩みや課題を明らかにしましょう。
消費者の行動を促す
悩みや課題を解決するために、消費者に取ってほしい行動をストーリーの中で示しましょう。どのような行動を消費者が選択することにより、どのような悩み・課題の解決につながるかを示す必要があります。ストーリーの中で、そのことを示すことで、消費者の行動を促すことができるでしょう。
エンディングを用意する
消費者の行動によって悩みや課題が解決するというエンディングがあって、はじめて消費者がブランドのファンになります。消費者によいエンディングを用意するには、高品質な商品開発やサービス提供が欠かせません。
上記のポイントを押さえて顧客目線を貫くことによって、消費者に寄り添い、共感を得られるストーリーづくりができるでしょう。
まとめ
ストーリーブランディングは、製品・企業の背景にある物語を使って、消費者の感情に訴えかけるというブランディングの手法です。商品が溢れて、すぐに買えるようになった現代では、消費者は単にものを購入するという物理的な満足感だけではなく、ストーリーを通じた精神的な満足感を求めるようになりました。このような意味から、ストーリーブランディングは消費者が求める心理的な満足感を満たすために有効なブランディングの手法です。
ストーリーブランディングを成功させるためには、顧客目線を貫くことが求められます。ストーリーの主役である消費者の行動を促せるストーリーを構築して、ストーリーブランディングを成功させましょう。