「マズローの欲求5段階説」とは?内容やビジネスへの活用例も

マズローの欲求5段階説とは、人間の欲求を5つの階層に分け説明した心理学理論です。生理的欲求・安全の欲求・社会的欲求・承認欲求・自己実現の欲求の5つがあり、最下層の生理的欲求から満たされるという特徴があります。

この記事では、マズローの欲求5段階説の基本情報を踏まえ、5段階の欲求のそれぞれの内容や、6段階目の欲求、欲求の分類などを詳しく紹介します。マーケティングやマネジメントにおける活用例にも触れるため、ビジネスに活用したい方は、ぜひ参考にしてください。

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1. 人間の欲求を5つの階層で表した「マズローの欲求5段階説」 

「マズローの欲求5段階説」とは、アメリカの心理学者アブラハム・マズローが著書「人間性の心理学」の中で提唱した、人間の欲求を5段階の階層で説明した心理学理論です。「マズローの法則」や「自己実現理論」と呼ばれることもあります。

一般的にピラミッド状の階層図で知られているマズローの欲求5段階説ですが、階層図自体はマズロー本人ではなく、後の解説者によってつくられました。

1-1. 提唱・発展の背景

マズローの欲求5段階説は、心理学のジャンルの内「ヒューマニスティック心理学(人間性心理学)」に分類されます。ヒューマニスティック心理学とは、外側から見える行動ではなく、意欲・感情などの主観的な心の動きに注目して人間心理を理解しようとするアプローチ方法です。

ヒューマニスティック心理学が登場する以前は別の考え方が主流でした。別の考え方とは、人間の心理は機械のようなものだとする「行動主義心理学」や、精神の大部分が無意識によって占められているとする「精神分析学」などです。しかし、行動主義心理学や精神分析学は、人間の心理を単純に考えすぎており、理論としては欠陥がありました。

そこで、人間の心理をもっと素直な形で理論化するために誕生したのがヒューマニスティック心理学です。マズローの欲求5段階説は、ヒューマニスティック心理学の代表格と言われています。

1-2. マズローの5段階欲求は下層から満たすことが原則

マズローが提唱した5段階の欲求は、「種類」ではなく「段階」です。
人間の欲求は、5つの階層を持つピラミッド構造になっています。下層は人間の基本的な欲求であり、最上段は自己実現の欲求です。マズローの5段階欲求では、下層の欲求から満たしていくことで、人間は最終的に自己実現に至るとされています。

2. マズローが提唱した5段階の欲求の内容

マズローの欲求5段階説は、人間の欲求が以下の5つの階層に分かれているとする説です。

下層の「生命維持に最低限必要なものを欲する欲求」から、上に向かってピラミッド型の序列になっている特徴があります。

ここからは、マズローが提唱した5段階の欲求の内容や意味について、具体例を交えながら解説します。

2-1. 1段階目「生理的欲求」

「生理的欲求」とは、人間が生きていくための基本的かつ本能的な欲求のことです。例えば、食欲や睡眠欲、排泄欲などが生理的欲求に当てはまります。

一般的な動物の場合、生理的欲求が満たされれば満足できる種族がほとんどです。しかし、人間の場合、生理的欲求段階にとどまっている状態が続くことは一般的ではなく、次の段階の欲求を満たしたいと考えます。

人間が次の欲求階層に進むためには、5段階欲求の最下層にある生理的欲求を満たすことが必要です。生理的欲求が満たされていない状態の人は、すぐにでも解決を目指すことをおすすめします。

2-2. 2段階目「安全の欲求」

「安全の欲求」とは、心身の安全が確保された生活を送りたいという欲求のことです。心身の健康と経済的安定性を手に入れ、安心できる環境で暮らしたいという欲求を指します。現在では多くの人が意識することなく叶えている、基本的欲求の1つと言えるでしょう。

成長過程の乳幼児には安全の欲求が特に顕著に見られますが、成長するにつれて自然と次の欲求段階へと昇華されます。

職場においては、以下のような状態であれば安全の欲求が満たされていると言えます。

・労働災害を起こさないための安全対策が取られている

・労働環境が整備されている

・ハラスメントがない

2-3. 3段階目「社会的欲求」

「社会的欲求」は、「帰属欲求」や「所属と愛情の欲求」とも呼ばれる欲求です。集団に所属したい、仲間を得たい、家族や友人などから受け入れられたいという欲求が社会的欲求に当てはまります。

社会的欲求が満たされない場合、孤独や社会的不安を感じやすくなります。人間は何らかの社会的集団に所属することで安心感を得る生き物であり、自分を受け入れてくれる他者の存在が不可欠と言えるでしょう。

以下は社会的欲求が満たされる集団の一例です。

・家族
・友人関係
・企業
・学校
・地域社会
・スポーツチーム、サークル
・ネットコミュニティ

2-4. 4段階目「承認欲求」

「承認欲求」とは、他者から認められたいと願う欲求を指します。承認欲求は下層の外的な欲求ではなく、自分の内面を満たしたいと考える欲求です。出世欲なども承認欲求に当てはまります。

承認欲求は低位と高位の2つに分類されます。

人によっては、低位の承認欲求が満たされるだけで満足できる場合もあります。

2-5. 5段階目「自己実現の欲求」

「自己実現の欲求」とは、「自分が満足できる自分になりたい」と願う欲求です。マズローの5段階欲求の最上位に位置しています。

「自身が専門とする分野で成功したい」「理想の家庭を築きたい」など、自己実現の欲求の方向性や規模は人によってさまざまです。しかし、生理的欲求~承認欲求の4つの欲求階層をすべて満たしていなければ満たせないという点では共通しています。

3. マズローが晩年提唱した6段階目の欲求「自己超越欲求」

マズローは晩年、5段階欲求に追加する形で6段階目の欲求「自己超越欲求」の存在を提唱しました。

自己超越欲求とは、自分のエゴを超え、社会そのものをよくしたいという理想を求める欲求です。自己超越欲求の例としては、以下のような内容が挙げられます。

・世界から貧困をなくしたい

・世界から戦争をなくしたい

・ボランティア活動をして社会をよりよくしたい

・自分の資産や労力を使って困っている人を助けたい

自己超越欲求は、自身ではなく他者に向けられた欲求です。災害が起こった際などに、有名人や富豪が慈善活動として被災地に寄付をする行為なども、自己超越欲求の一種と言えます。マズローによれば、自己超越段階に到達できるのは全人類の2%程度だとされています。

4. マズローの欲求の3つの分類

マズローが提唱した5段階の欲求は、「外的欲求と内的欲求」「物質的欲求と精神的欲求」「欠乏欲求と成長欲求」の3つの観点から分類することが可能です。マズローの欲求5段階説の分類方法は、一般的に「マズローの5段階欲求の3分類」と呼ばれています。

マズローの欲求5段階説を分類することは、人間の欲求を理解する上で重要です。ここからは、それぞれの分類の内訳や意味について詳しく解説します。

4-1. 外的欲求と内的欲求

マズローの5段階欲求を、欲求の対象が内側にあるのか外側にあるのかという観点で分類する方法です。外的欲求と内的欲求の観点で見た場合、マズローの5段階欲求は以下のように分類されます。

生理的欲求~社会的欲求は自身の外部環境を満たそうとするものであり、承認欲求・自己実現の欲求は自身の内側を満たそうとするものです。人間は外的欲求が満たされると、欲求が内側に向くとされています。

4-2. 物質的欲求と精神的欲求

マズローの5段階欲求を、家や水・食料といった「もの」を必要とするのか、心の満足を求めるのかという観点で分類する方法です。具体的には以下のように分類されます。

生理的欲求・安全の欲求で求めるのは、生命の維持に必要な物資などです。一方、社会的欲求~自己実現の欲求で求めるものは生命の維持には必要ありません。しかし、精神や心との関係性が強い高次の欲求となっています。

4-3. 欠乏欲求と成長欲求

マズローの5段階欲求を、不足しているものを補おうとする欲求か、自分をより高めようとする欲求かという観点で分類する方法です。具体的には以下のように分類されます。

自己実現の欲求以外のすべての欲求は、自分に足りないものを外部から得ようとする欲求です。欠乏欲求が満たされることが、さらに上を目指したいという欲求の動機になります。

5. マズローの欲求5段階説への反対意見も

マズローの欲求5段階説は広く普及し、多くの人から支持されており、幅広い場面で活用できる心理学理論です。一方で、マズローの欲求5段階説には科学的根拠がない点に注意する必要があります。

さらに、マズローの欲求5段階説は「価値観の押し付け」になりかねないという考え方もあります。マズローの欲求5段階説には、人それぞれの価値観の違いが反映されていません。そのため、マズローの欲求5段階説に従えば、お金を得るために働いている人と自分の理想のために働いている人では、後者のほうが尊いということになってしまいます。しかし、現実的には人それぞれが働く動機に優劣は付けられません。

マズローの欲求5段階説は、自社の風土や提供するサービスに合わせ、あくまでも視点の1つとして取り入れることがおすすめです。

6. 【場面別】マズローの欲求5段階説の活用例

マズローの欲求5段階説は、さまざまな場面で活用できる汎用性の高い心理学理論です。マーケティング戦略や組織のマネジメントをはじめ、ビジネスの分野で用いられることも少なくありません。

ここからはマズローの欲求5段階説の活用方法を紹介します。経営者やマーケティング担当者、人事担当者などはぜひ参考にしてください。

6-1. マーケティング戦略

マーケティング戦略は、マズローの欲求5段階説の代表的な活用例です。マズローの欲求5段解説に当てはめることこそがマーケティングの基礎とも言われています

例えば、同じ商品やサービスでも、「どのような欲求を持っている人を顧客層にするのか」や「どの欲求を満たすものを提供するか」は企業によって異なります。

住宅を扱う企業の場合、低価格を売りにしたハウスメーカーや工務店がユーザーに選んでいるのは、生理的欲求や安全の欲求を満たしたい人です。一方、デザイン性の高さを売りにしている企業は、「家で個性をアピールしたい」などの承認欲求を満たしたい人をユーザーに選んでいます。

マズローの欲求5段階説の下層から顧客のニーズを当てはめて分析し、自社の商品・サービスによって顧客のニーズを満たせていない部分を明らかにすることも可能です。

マズローの欲求5段階説を用いることで、商品が売れやすい仕組みをつくることが可能になると言えます。

6-2. 組織のマネジメント

マズローの欲求5段階説は、「インナーブランディング」による組織のマネジメントの参考にもなる考え方です。

インナーブランディングとは、従業員などの社内に向けて行うブランディングを指します。企業理念などを社内に共有・浸透させ、従業員の業務への姿勢向上を図り、その先にある企業価値向上や企業の成長を目標とする取り組みです。

しかし、企業側がいくら熱心に理念を伝えても、従業員側に受け入れる体制が整っていなければうまく浸透させられません。組織の風土を見直すためには、マズローの欲求5段階説の中で、従業員がどの位置にあるのかを確認し、適したアプローチを行う必要があります。企業の方向性と個人の欲求の段階をすり合わせることで、従業員が自発的に成長や組織への貢献に取り組む体制を実現できるでしょう。

6-3. 従業員のモチベーション管理

マズローの欲求5段階説の考え方は、従業員のモチベーション管理にも活用できます。

従業員は、組織に所属している時点で下層の生理的欲求や安全の欲求は満たされているべきです。しかし、ハラスメントや従業員にとって不利益となる条件などがあれば、下層の欲求が満たされず、従業員のモチベーションが下がります。従業員に高いモチベーションを求めるのであれば、企業側が従業員の生理的欲求・安全の欲求を満たす必要があるでしょう。

多くの場合、生理的欲求・安全の欲求が満たされた従業員は社会的欲求を望むようになります。承認欲求の段階にある従業員に対しては、難易度の高い業務を任せ、結果を認めるやり方が効果的です。

企業側によって下層の欲求を満たし、企業の話を聞き入れられる状態にできれば、従業員の欲求は上向きになり、企業が理想とする風土づくりにつながるでしょう。

このように、マズローの欲求5段階説を参考にし、従業員の欲求レベルを見計らいながらモチベーション管理をするとよいでしょう。

まとめ

マズローの欲求5段階説では、人間の欲求は生理的欲求・安全の欲求・社会的欲求・承認欲求・自己実現の欲求の5つの階層に分けられます。提唱者のマズローは晩年、6段階目の欲求として「自己超越欲求」も提唱しました。

マズローの欲求5段階説はマーケティングや組織マネジメントなど、ビジネスにおいても幅広いシーンで活用されています。一方で、科学的な根拠が乏しい点が指摘されているため、必ずしもすべての企業に当てはまるわけではないことを念頭に置き、上手に活用しましょう。

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