ランチェスターの法則とは?経営に活用する方法や事例を解説

第一次世界大戦時にイギリスで生まれたランチェスターの法則は、経営戦略である「ランチェスター戦略」としてビジネスでも活用されています。ランチェスター戦略のうち、特に有名な「弱者の戦略」は、経営資源や市場シェアで弱者の立場にある企業が、業界トップの企業に勝利するための戦略です。

この記事ではランチェスターがモデル化した2つの法則と、法則をビジネスに応用したランチェスター戦略について、理論の内容やセオリー、活用事例などを解説します。

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1. 戦闘力を数理モデル化したランチェスターの法則 

ランチェスターの法則とは、戦闘している2つの軍勢の兵員数および武器の質・量を数理モデル化し、戦闘の優位性を導くものです。第一次世界大戦時に、イギリスの技術者F.W.ランチェスターの分析によって考え出されました。

古典的な戦闘と近代的な戦闘では、兵器や戦闘結果に大きな差が生じます。そのため、ランチェスターの法則には、第1法則・第2法則の2つの法則があります。

1-1. 局地戦・接近戦における「第1の法則」

ランチェスター第1の法則は、局地戦や接近戦を想定したものです。1対1で戦う一騎打ちをイメージしていることから、第1の法則は「一騎打ちの法則」とも呼ばれています。

ランチェスター第1の法則の計算式は「戦闘力=武器効率×兵力数」です。

例えば、同じ武器を持つ兵員の人数が5人いる軍と10人いる軍が戦った場合、5人の軍は全滅し、10人の軍は5人生き残ります。
異なる武器を持つ軍勢の戦闘では、武器効率が重要です。銃を使う5人と剣を持つ5人が勝負した場合、銃の武器効率のほうが高いため、剣の軍勢は全滅します。

ランチェスター第1の法則では、同じ兵力数の場合は武器効率が高いほうが勝ち、同じ武器効率の場合は兵力数が多いほうが勝つことを、シンプルに表しています。

1-2. 広域戦における「第2の法則」

ランチェスター第2の法則は、近代的な兵器による広域戦を想定したものです。多数の兵員同士で攻撃しあう近代的な戦闘では、第2の法則が適用されます。別名として、「集中効果の法則」や「二乗の法則」とも呼ばれています。

第2の法則で用いる計算式は「戦闘力=武器効率×兵力数の2乗」です。武器効率が同じであれば、戦闘力は兵力数の2乗に比例します。

例えば、機関銃や爆弾、戦闘機、戦車などで武装した兵員同士が戦うと仮定すると、戦闘力は2乗に作用します。

第2の法則を適用する近代的な広域戦では、兵力が多い・武器効率が高い側が圧倒的に有利です。そのため、リソースが乏しい側が勝利するのは非常に困難であると言えるでしょう。

2. ビジネスで活用されている「ランチェスター戦略」

第一次世界大戦時における競争原理から導き出されたランチェスターの法則は、現在も多くの企業で活用されています。
ランチェスターの法則をビジネスに応用した経営戦略のことを、「ランチェスター戦略」と呼びます。ランチェスター戦略によって、企業は取るべき戦略を自社の規模やマーケットシェアに合わせて決めることが可能です。

2-1. 「弱者が勝てる戦略」として注目

ランチェスター戦略は、特に「弱者が勝てるビジネス戦略」として注目されています。弱者が勝てる戦略が該当するのは、ランチェスターの2つの法則のうち第1の法則です。

弱者となった企業は、戦力で優位に立つ強者に勝つために、第1の法則を活用した戦いを行います。第1の法則では兵力数・武器効率が2乗されないため、工夫次第で強者との戦力差を埋めることが可能です。ランチェスター戦略における「弱者」には、中小企業だけでなく、マーケットシェアで敗れている大手企業も含まれます。

ランチェスター戦略では、「弱者の5大戦略」によって弱者が強者に勝てると示しています。弱者の5大戦略は以下の通りです。

弱者のみならず「強者の戦力」としてもランチェスター戦略は使われ、強者が用いる場合は第2の法則が活用されています。

2-2. マーケットシェア理論との関係性

ランチェスター戦略を適切に使うには、自社が弱者と強者のどちらにあたるのかを把握することが必要です。弱者か強者かを判断し、自社の取るべき戦略を決定するために、「マーケットシェア理論」があります。

マーケットシェア理論とは、市場シェアの目標値を、ランチェスターの法則にしたがって定めたものです。マーケットシェアの目標値は7つあり、7つの目標値を強者・弱者の2つに分けると以下の通りになります。

出典:兵庫県立大学大学院  社会科学研究科 経営専門職専攻(経営専門職大学院)「商大ビジネスレビュー ランチェスター戦略の学術的意義に関する考察」

3. ランチェスター戦略で勝つための3つのセオリー

ランチェスター戦略には、実行する上で守るべき3つのセオリーがあります。3つのセオリーは、強者の場合でも弱者の場合でも有効です。セオリーにしたがった経営を行うことで、自社に有利な状況を作り出すことが可能です。

各セオリーについて、詳しく説明します。

3-1. 1点に集中する

ランチェスター戦略において重要な「1点集中主義」は、狙うべき目標を1つに設定し、多角的な展開を控えることによって、経営資源を効果的に投入する経営セオリーです。

1点に集中する内容は、タイミングやシーン、自社の強みに応じて異なります。

例えば、地域密着型の場合は、地元志向で狭い範囲の地域で事業展開するとよいでしょう。特定商品のエキスパートであることを自社のアピールポイントとする場合は、1つの商品に特化した専門店などを経営するのも効果的です。
ただし、世相を読まずに1点集中主義に徹した場合、顧客に飽きられたり価格競争に巻き込まれたりするリスクがあります。どの商品やサービスに1点集中すべきなのか、状況を見ながら判断するのが大切です。

3-2. 自社の1ランク下の競合を攻める

ランチェスター戦略のセオリーの2つ目は、「足下(そっか)の敵攻撃の原則」です。足下の敵攻撃の原則とは、高いマーケットシェアを獲得したい場合には、自社の1ランク下の競合企業を攻めるべきであるとする考え方です。

自社よりもシェアの数値が高い企業と戦った場合、単に自社の体力が失われるだけの結果になってしまうことがあります。一方で、自社の1ランク下の競合企業と戦ってシェアを獲得しようとすれば、投下する資源は比較的少なく済むでしょう。
下位の競合のシェアを奪うことで、自社のシェアは伸び、競合は下がります。両者のシェア差は大幅に広がるため、自社に有利な展開をつくり出すことが可能です。一方、1ランク上の競合企業との戦力差は縮められます。

3-3. ある市場において1位になる

ある市場において1位になることを意識する考え方を、ランチェスター戦略の「ナンバーワン戦略」と呼びます。ナンバーワン戦略は、ランチェスター戦略の重要なセオリーの1つです。

ナンバーワン戦略には、特定の市場で1位になるためのプランの立案や実行、改善までのすべての過程が含まれています。

1位を獲得すると、多数の顧客に自社の社名や商品・サービスを認知してもらえるとともに、1位の獲得に成功した商品以外にも目を向けてもらえます。自社商品の一般化やグローバル展開、他業種とのコラボレーションの実現など、ビジネスチャンスの拡大も可能です。

弱者の立場にある企業が1位になるには、エリア・顧客・商品を、できるだけニッチな市場で展開することがポイントです。隙間を狙うような事業展開を行えば、ナンバーワンを獲得しやすくなるでしょう。もちろん、競合企業との差別化や、効果的なプロモーション活動も欠かせません。

4. ランチェスターの戦略の活用事例4選

ランチェスター戦略は古典的なビジネス戦略として、中小企業から大手企業までさまざまな企業が活用しています。自社が強者と弱者のどちらの立ち位置か理解した上で活用すれば、市場のシェアを獲得しやすくなるでしょう。

ランチェスター戦略のうち、弱者の戦略をビジネスに活用することによって、市場における競争に勝利した企業事例を4つ紹介します。

4-1. ソフトバンク

ソフトバンクは、モバイル業界における3大キャリアの1つです。しかし、ソフトバンクがモバイル業界に参入した当時、圧倒的な強者はNTTドコモでした。

弱者の立ち位置にあったソフトバンクが実施した対策は、ランチェスター戦略の「弱者の5大戦略」の1つである、競合企業の裏をかく陽動作戦です。

具体的には、ソフトバンクは徹底した最安値の追求を実施しました。その結果、ソフトバンクは大きく成長し、シェア競争におけるNTTドコモとの差を縮めています。

参考:「ソフトバンク」https://www.softbank.jp/

4-2. セイコーマート

セイコーマートは、北海道で1,000店舗以上を展開するコンビニエンスストアです。業界で強者として知られているのはセブンイレブン・ローソン・ファミリーマートなどですが、弱者のセイコーマートはランチェスター戦略を活用して成功しています。

セイコーマートはオリジナルブランドの販売や手頃な価格の総菜の提供、店内で調理するイートインコーナーの設置によって、大手企業との差別化を実現しました。大手では出店しないであろう僻地にも出店することで、北海道民に信頼されるコンビニエンスストアとなっています。

参考:「セイコーマート」/https://www.seicomart.co.jp/

4-3. セブンイレブン

現在は全国を代表するセブンイレブンですが、1996年に関西地方に進出を開始した当時、大阪のコンビニエンスストア業界でトップの地位にあったのはローソンでした。不利な状況の地域への進出にあたり、セブンイレブンはランチェスター戦略の「1点集中主義」を活用します。

特定の地域で集中的に出店した結果、セブンイレブンの地域内の知名度は向上し、顧客の親近感は高まりました。出店する地域を段階的に増やし、現在は関西地方でも圧倒的なシェア率を誇っています。

参考:「セブンイレブン」https://www.sej.co.jp/

4-4. ハウステンボス

ハウステンボスは長崎県佐世保市にある人気のリゾートスポットです。1992年の開業から2010年までは赤字の続く厳しい経営状況でしたが、ランチェスター戦略の活用によって再生しました。

強者のディズニーリゾートやユニバーサルスタジオに、テーマパークとしては勝てないと判断し、ハウステンボスを「都市」と位置づけることで差別化を図ります。路線の差別化によって、国際会議や企業の研修旅行といった新たな需要を創出しました。

顧客を重視する「接近戦」の戦略も意識し、掃除の徹底やスタッフの意識改革などを実施することで、ハウステンボスは優良企業となっています。

参考:「ハウステンボス」https://www.huistenbosch.co.jp/

まとめ

ランチェスターの法則とは軍隊の戦闘力を数値化した法則であり、局地戦や接近戦を想定した第1の法則と、広域戦を想定した第2の法則が存在します。ランチェスターの法則を応用したビジネス戦略がランチェスター戦略です。ランチェスター戦略は、マーケットシェアで敗れている企業が市場競争に勝利できる「弱者が勝てる戦略」としても知られています。

ランチェスター戦略で勝利するためには、マーケットシェア理論に沿って自社が強者か弱者かを把握して戦略を決めることが必要です。また、強者・弱者のどちらも、「1点集中主義」「足下の敵攻撃の原則」「ナンバーワン戦略」の3つのセオリーを守ることでシェアを獲得しやすくなります。

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